【症例】昭和17年9月生まれ 男性
【主訴】便秘・口内炎
【既往症】口内炎・肺炎
【現症状】辛巳の歳、平成13年の9月、ストレスから湿疹が出て、クリニックに通い、安定剤と痒み止めの薬をもらって服用していた。ところが痒みが、なかなか治まらずに今度は便秘をし出したということで、数日たっても便が出ないという。病院に通い浣腸をし、下剤を服用しても心下部からお腹にかけて膨満感があり、苦しいと。病院に行って、お医者様から肛門に手を入れて腸の便の様子を見てもらっても、そこに便は無いということであります。
以上の事で見えられました。そこでいろいろと問診をして症状を聞きますと、先ずは体が少し痒みがあり、顔はやや赤みを帯びている顔、それに上半身、特に顔に汗をかくという。微嘔もあり、それで、心下部からお腹にかけて膨満感があり苦しいと。胸脇の部位を押してもらったら、やや圧痛がある。少し吐き気も感じられるという。この方は十数年来の顧客で、体の状態は、ただ話だけではなく体質として感じるものがありました。職場でも非常に気を使う方で、明らかに肝臓に負担をかけたことをしているのが感じられました。
【案】こういうことからこれは肝臓のバランスがとれていないように思われます。肝臓の薬は一般的には柴胡剤がありますが、首から上に汗をかくということで柴胡桂枝乾姜湯が考えられます。そこで一服、柴胡桂枝乾姜湯をお湯に溶いてのんで頂きました。げっぷと共に膨満している症状が2〜3分の後に消失しました。数日間服用の後に来られて、あれから毎日便通がありましたと。その後服用し続けられ、7日間位経ってから、舌の先に口内炎ができて痛いと、それに少しむかつきがありますといわれ、何かないかと尋ねられました。
口内炎といえば、最初に考えるのが半夏瀉心湯であります。しかし、服用して頂いても反応なし。
いろいろ話をしていくうちに、何か自分の思い通りやろうとして、一寸待ってくれといわれると、もういいと直ぐ断ってしまう。すぐにそうしたいという事を言われた。陰陽で言いますと陰は水、陽は火、はっきりさせたいのは火の方であります。火としての熱が心にこもっています。やはり瀉心湯の系統であります。舌の位置から診ても、やはり心であります。瀉心湯類の主薬は黄連であります。黄連には心煩がつきものであります。やはり胸のあたりが言い表しにくいが、そのようであるという。黄連の薬嚢としては、「新古方薬嚢」より、「ボク曰く血の虚熱を去り、虚熱より来る諸証を治す皮膚の痒み、又はタダレ心下の痞、下痢出血、心煩、腹痛、など皆それより生ずる証候となす。応用 胸や腹の病ひ、又はそれより来る発熱、心煩、下痢、腹痛、又は皮膚の熱あるただれを治するに用ひらる」と。
黄連剤には、半夏瀉心湯・甘草瀉心湯・生姜瀉心湯・黄連湯・黄連解毒湯・附子瀉心湯・葛根黄芩黄連湯・黄連阿膠湯・乾姜黄芩黄連人参湯・三黄瀉心湯・小陷胸湯などから判断すると

小陷胸湯は黄連・括楼實・の苦寒剤を使うほど熱は無い。
三黄瀉心湯のいく体質でもないし、便秘もない。
乾姜黄芩黄連人参湯のいく厥陰病でもない。
黄連阿膠湯のいく少陰病でもない。しんに熱こもりて寝られない事もない。
葛根黄芩黄連湯の喘而汗出、肩こりはない。
附子瀉心湯のいく悪寒はない。
黄連解毒湯のいくほどの熱はないし、充血感もない。
生姜瀉心湯のいくげっぷなどの症状、お腹がごろごろいう様な気の症状はなし。
甘草瀉心湯の気鬱の症状もない。

そうすると黄連湯が考えられる。黄連湯を一服させたら直ぐ口内炎の痛みが治まった。
黄連湯は半夏瀉心湯の黄芩を桂枝に変えてあります。


「傷寒論・下篇第四十六条」
「傷寒胸中に熱あり胃中に邪気あり腹中痛み嘔吐せんと欲する者黄連湯之を主る」
とあります。