漢方相談薬局
凡そ漢方の考え方は非常に合理的に出来ています。例えば、
文献「金匱要略」の「肺痿肺癰欬嗽上氣病脈証治第七」篇の中に
●「肺痿、涎沫を吐して欬せざる者は、其の人渇せず、必ず遺尿し、小便数なり。然る所以の者は、上虚して下を制する能わざるを以っての故なり。これを肺中冷と為す。眩し、涎唾多し。甘草乾姜湯を以って之を温む。」とあります。
(肺痿に熱のある肺痿と熱のない肺痿があり、甘草乾姜湯の肺痿は「冷」で寒の方の肺痿であります。あわのまじった涎を吐いて咳はしないで喉の乾きはなく、必ず小便が多く、漏らしたりします。そういう者は上の方の働きが弱って、下の方を制御できないという理由によるわけです。これは肺が冷えている為であるとするのであり、必ずめまいがし多くの涎や唾を吐くものに、甘草乾姜湯で温めてやりなさいということであります。)
上焦 甘草乾姜湯の方 甘草 四両 乾姜 二両
文献「金匱要略」の「胸痹心痛短氣病脈証治第九」篇の中に
●「胸痹、心中痞氣、氣結んで胸に在り、胸満ち、脇下より心を逆搶するは枳實薤白桂枝湯之を主る。人参湯も亦之を主る。」とあります。
(胸がふさがったように痛く、胸にいっぱい物がつまっている感じがあり、気がめぐらなくなって、胸に詰まっていて、それにみずおちも張って、脇の下から突き上げてくるような痛みがきます。枳實薤白桂枝湯は気のつまりをやぶることにより治療し、人参湯もまた、原因が中の方の冷えであり裏寒であり、温めて気を散らす働きにより主治しなさいということであります。)
中焦 人参湯の方 人参 三両 甘草 三両 乾姜 三両 白朮 三両
文献「金匱要略」の「五臓風寒積聚病脈証併治第十一」篇の中に
●「腎著の病は、其の人、身体重く、腰中冷え、水中に坐するが如く、形水状の如くにして、反って渇せず、小便自利し、飲食故の如きは、病下焦に属す。身労して汗出で、衣裏冷湿し、久久にして之を得。腰以下冷痛し、腰重きこと五千銭を帯ぶるが如し。甘姜苓朮湯之を主る。」とあります。
(腎著の病は、からだが重く、腰が冷えて水の中に座っているようで、浮腫のあるような状態であるのに、喉は渇かない。浮腫みのある者は口渇があって水を飲むのに尿が出ないのが、反って尿が出て、飲食は普通のとおりであります。これは病が下焦にあるからであります。体が疲労して汗が多く出て、衣服の裏は汗で湿って冷えることが長く続くと腎著の病になります。
この病気は、腰から下が冷えて痛み、腰に五千銭の重い物をつけているようであります。これは,甘草乾姜茯苓白朮湯が主るということであります。)
下焦 甘草乾姜茯苓白朮湯の方 甘草、白朮 各二両 乾姜、茯苓 各四両
乾姜の量が、上焦では二両 中焦は三両 下焦は四両となり、体の下に行けばいくほど、乾姜の量が多くなっているのであります。つまり、温める力が増すのであります。
逆に甘草の量は、上焦は四両 中焦は三両 下焦は二両となっております。段々減っています。
このことから漢方の偉大な合理的な処方構成になっているということが判るわけであります。
このような処方の中の薬味の量の違いが大変大事であるということになります。
傷寒論では、三陰三陽病の病型をその経過に応じて、三陽に属している太陽病、陽明病、少陽病の分類と、三陰に属している太陰病、少陰病、厥陰病とに区別している。
傷寒論 「辨太陽病脈証併治法上第五」篇に
●太陽之為病脈浮頭項強痛而悪寒
「太陽の病たる脈浮頭項強痛して悪寒す」
太陽病とは、図の如く表の病位において陽の病状を現す表熱証であります。要するに、太陽病は、表位の病気でありますから、
特に体の上部及び背面に著明な病状を現すことになります。
その症状は、脈浮、頭痛、項背強、発熱、悪寒などであります。
傷寒論 「辨陽明脈証併治第八」篇に
●陽明之為病胃家實也
「陽明の病たる胃家實なり」
陽明病とは、図の如く裏の病位において、陽の病状を現す裏熱証であります.症状は、主としてからだの下部及び前面に現れる傾向があります。
その症状は、悪熱(おねつ)潮熱(毎日一定の時間になると出てくる熱)せん語(うわごと)腹満、便秘、脈は沈實、沈遅などを呈します。
傷寒論 「辨少陽病脈証併治第九」篇に
●少陽之病口苦咽乾目眩也
「少陽の病口苦く咽乾き目くるめくなり」
少陽病とは、図の如く半表半裏の病位において、陽の病状を現す半表半裏熱証であります。症状は、主としてからだの中部及び胸脇部(側面)に病状が現れます。
主要なる症状は、口が苦い、咽の乾き、目眩(めまい)耳聾(耳が聞こえない)往来寒熱(寒気と熱感が交互にくる)舌上白苔、胸脇苦満(肋骨弓の下縁に沿って充満したような感じで、指で圧すると圧迫感を感じる)心下痞硬(みぞおちがつかえて硬くなっている)の症状があります。その他に食欲不振、心煩(胸苦しい)、嘔吐、口渇、腹中痛、心下悸(みぞおちのあたりの動悸)、小便不利、微熱、咳などがあります。
傷寒論 「辨太陰脈証併治第十」篇に
●太陰之為病腹満而吐食不下自利益甚時腹自痛若下之必胸下結鞕
「太陰の病たる腹満して吐し食下らず、自利益々甚し、時に腹自から痛む、若し之れを下せば必ず胸下結鞕す」
太陰病とは、図の如く裏の病位において陰の病状を現すもので寒で虚であるから裏寒証であります。
症状は腹満(虚満といって力のない状態)、自利、嘔吐、不食、腹痛などであります。
傷寒論 「辨少陰病脈証併治第十一」篇に
●少陰之為病脈微細但欲寐也
「少陰の病たる脈微細にして但だ寐ねんと欲するなり」
少陰病とは、図の如く表の病位において陰の病状を現すもので太陽病は熱証であるのに、少陰病は寒証であります。
主な症状は、脈が微細を現し、ただ寝ていたい、からだを横たえていたいのであります。その他の外証では悪寒、身体痛、手足の冷え、更には嘔吐、咽痛、下痢などがあります。
傷寒論 「辨厥陰病脈証併治第十二」篇に
●厥陰之為病消渇氣上撞心心中疼熱飢而不欲食食則吐蚘下之利不止
「厥陰の病たる消渇、氣上って心を撞き、心中疼熱、飢えて食を欲せず、食すれば則ち蚘を吐し、これを下せば利止まず」
厥陰病とは、図の如く半表半裏の病位に陰の病状を現すもので少陽病とその病位は同じですが、厥陰病は陰の寒証を現します。
症状としては、上半身が熱して、下半身が冷える症状であります。その理由は、陽気が上の方にあがって、陰気が下の方に下がって、陰陽の働きが交わりません。主なる症状は、皮膚が冷えて、手足もつま先から厥冷します。その他に胸に焼けるような痛みがあったり、お腹がすいているのに食べられないとか、食べて直ぐに吐いてしまうとか、下痢が起ったりします。
傷寒論の特色は、病気の経過を六つの病の時期に分けて、病気の状態を把握し、処方を決定することにあります。
病には、それぞれ解そうとする時間があります。
右図のように、三陰三陽の病の治癒する時期を図示して見ました。
T.傷寒論の「辨太陽病脈證併治法上第五」の第10条に
●太陽病欲解時従巳至未上
「太陽病、解せんと欲するの時、巳より未の上に至る」
(太陽病の場合は午前九時より午後三時迄に治ろうとします)
U.傷寒論の「辨陽明脈證併治第八」の第16条に
●陽明病欲解時従申至戌上
「陽明病、解せんと欲するの時、申より戌の上に至る
(陽明病の場合は午後三時より午後九時迄に治ろうとします)
V.傷寒論の「辨少陽病脈證併治第九」の第10条に
●少陽病欲解時従寅至辰上
「少陽病、解せんと欲するの時、寅より辰の上に至る
(少陽病の場合は午前三時より午前九時迄に治ろうとします)
W.傷寒論の「辨太陰脈證併治第十」の第3条に
●太陰病欲解時従亥至丑上
「太陰病、解せんと欲するの時、亥より丑の上に至る
(太陰病の場合は午後九時より午前三時迄に治ろうとします)
X.傷寒論の「辨少陰病脈證併治第十一」の第11条に
●少陰病欲解時従子至寅上
「少陰病、解せんと欲するの時、子より寅の上に至る
(少陰病の場合は午後十一時より午前五時迄に治ろうとします)
Y.傷寒論の「辨厥陰病脈證併治第十二」の第3条に
●厥陰病欲解時従寅至卯上
「厥陰病、解せんと欲するの時、寅より卯の上に至る
(厥陰病の場合は午前三時より午前七時迄に治ろうとします)