血の道症(瘀血について)

血の道症とは、血液の流れが悪くなって汚れた、どろどろした血液でおこってくる症状であり昔から言われている「古血(ふるち)」の事であります。この古血(ふるち)が停滞している状態を漢方医学では「瘀血(おけつ)」といいます。東洋医学では、この瘀血(おけつ)を取り除く為に次のような生薬を使っています。

1.温めて治す温性の駆瘀血剤=当帰・川芎・紅藍花・乾漆(うるし)
2.冷やして治す寒性の駆瘀血剤=土瓜根・桃仁・牡丹皮・地黄・敗醤・牛漆・香附子
3.とくに古くなった瘀血を下す=虻虫(あぶ)・水蛙(ひる)・油虫(あぶら虫)・蠐螬(昆蟲の蛹蟲)


漢方薬を処方する為の薬味の考え方

この考えを用いて駆瘀血薬を考えます

漢方医学では、薬を用いるとき、その薬味に味があります。薬の味により働きが違います。要するに、酸味には収斂作用があり、苦味には固める作用があり、甘味には緩和作用があり、辛味には発散作用があり、鹹味には潤す作用があります。
しかも、この五感の味にも、温める作用、冷やす作用、どちらにも属さない作用の者もあります。この五つの味を酸・苦・甘・辛・鹹と言い、その働きを温・微温・平・寒・微寒で表示します。
この事を、五行相剋説・五行色体表から考えますと
例えば、麻黄という漢方薬の薬味は、味が苦くて温めますので、苦温と表示します。また黄連という薬味は、味が苦くて冷やしますので、苦寒と表示します。
このような表現は、薬物書の「神農本草経」にあります。金匱要略の「臓腑経絡先後病脈證第一」には「肝の病を補うには、肝の味である酸を用い、木の子にあたる心の味である焦苦を用い補益の甘味のある薬を用いて調える。酸は肝に入り、焦苦は心に入り、甘は脾に入る。土は水に勝つから、脾は腎を剋する。腎の働きが弱くなると、水のめぐりが悪くなる。水がめぐらないから心の動きが盛んになる。心火が盛んになると肺の気が傷られる。肺の働きがおとろえると肝の働きが盛んになる。肝の働きが盛んになると治る。
こういう故に肝を治すには脾の動きを補うということが要点である。
肝が虚している場合には、この方法を用い、実している場合は、用いない。
経にいう、虚を虚と、実を実と診断して、不足を補い、有餘を瀉するとありますが、これはそういう意味であります。その他の臓も、これにならいなさいと」とあります。

このような漢方薬の味と其の働きを用いて、内臓の働きが、虚であるか、実であるかによって薬草の使い方、つまり漢方処方を決定いたします。

そこで温性か、寒性か、陳久性の駆瘀血薬を考えます。


五行説による薬味の味と働きの駆瘀血薬

温性・寒性の駆瘀血薬

T.温性の駆瘀血薬

當歸(とうき)〔甘温〕
「神農本草経」に曰く當歸味甘温、欬逆上気、温瘧寒熱洗洗皮膚中に在り肥人漏下子を絶つを主どる諸悪瘡瘍金瘡の者之を飲ますと。
「新古方薬嚢」ボク曰く當歸味甘温、中を暖め外の寒を退け氣血の行りをよくすることを主どる、故に手足を温め、腹痛を治し、内を調へ血を和し胎を安んず、之れ當歸の好んで婦人血の道の諸病、諸の冷え込み等に用いらるる所以なるべし。


川芎(せんきゅう)〔辛温〕せんきゅうの根
「神農本草経」に曰く芎藭味辛温、中風脳に入り頭痛するのや、寒痺にて筋の攣り緩急あるのや、金瘡や、婦人血閉して子の無きのやなどを主どると。
「新古方薬嚢」ボク曰く川芎味辛温、氣のめぐりを良くしのぼせを下げ頭を軽くし腹痛を治し月経不順を調へ又は下血を止どめ或は胎児を安んず、芎藭は當歸と合用せられ諸種の婦人病、昔時の所謂血の道に応用せらる此れ等は皆氣の滞りを散じ血行を順にさせる為と思われます。


紅藍花(こうらんか)〔辛温〕べにばなの花弁を謂う
「新古方薬嚢」ボク曰く紅藍花は味辛温、よく血を行らし瘀滞を逐うの効ありと謂はる、瘀血とは凝滞して流れず害をなす者。


乾漆(かんしつ)〔辛温〕うるし汁の自然に乾きたるもの。
「神農本草経」に曰く乾漆味辛温、絶傷を主どり中を補い筋骨を続け髓脳を填たし、五臓の五緩五急を安んじ風寒湿痺を主どり久しく服すれば身を軽くし労に耐ゆと。
「新古方薬嚢」ボク曰く乾漆は味辛温、ただれを愈やし濕りを乾かし悪瘡を治し労を補うと。故に乾漆は大黄しゃ蟲丸に配伍せられ諸の勞及び皮膚甲錯を治するに用いらる。

     
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U.寒性の駆瘀血薬

土瓜根(どかこん)〔苦寒〕からすうりの根なり。
「神農本草経」に曰く王瓜味苦寒、消渇内痺瘀血月閉寒熱酸疼を主どり氣を益し聾を愈やすと。
「新古方薬嚢」ボク曰く王瓜味苦寒、熱を去り瘀滞を去る。故によく導をなし又陰たい腫を治す。


桃仁(とうにん)〔苦平〕もものさねなり。
「神農本草経」に曰く桃仁味苦平、瘀血血閉癥瘕邪氣を主どり小蟲を殺すと。
「新古方薬嚢」ボク曰く血の燥きを潤し滞りを通じ結を解く、故に血證薬として広く用いらる。


牡丹皮(ぼたんぴ)〔辛寒〕ぼたんの根のかわなり。
「神農本草経」に曰く牡丹辛寒、寒熱中風瘈瘲驚癇邪氣を主どり癥堅瘀血腸胃に留舎するを除き五臓を安んじ癰瘡を療すと。
「新古方薬嚢」ボク曰く牡丹皮味辛寒、内の熱を散じ結滞を浄め消するの効あり。


地黄(ぢおう)〔甘寒〕和名さをひめの根なり。
「神農本草経」に曰く乾地黄味甘寒、折趺絶筋傷中、血痺を逐い骨髓を填たし肌肉を長ずることを主どる、湯と作せば寒熱積聚を除き痺を除く、生者尤も良し、久服すれば身を軽くし老せずと。
「新古方薬嚢」ボク曰く地黄は味甘寒、血の熱を涼し出血を止どめよく肌肉を潤し養う、故に腎気丸、三物黄芩湯、黄土湯、膠艾湯、炙甘草湯等に用いらる。これ等は皆つまる所は血を治する所にあるが故とみるべし。


敗醤(はいしょう)〔苦平〕おみなへしの根なり。
「神農本草経」に曰く敗醤味苦平、暴熱火瘡赤氣疥瘙疽痔馬鞍熱氣を主どると。
「新古方薬嚢」ボク曰く敗醤は味苦平、悪瘡を治する効ありと謂はる。臭き薬を以て臭き癰膿を治す。自然の妙用か。薏苡附子敗醤散に用いらる。


牛膝(ごしつ)〔苦平〕ひなたいのこずちの根。
「神農本草経」に曰く寒濕痿痺、四肢拘攣し、膝痛して屈伸すべからざるもの、血氣を逐い、傷熱、火爛、胎を堕ろすを主る。


香附子(こうぶし)〔甘微寒〕はますげの根茎。
「本草綱目」に曰く時気の寒疫を散じ、三焦を利し、六鬱を解き、飮食の積聚、痰飲痞満、肘腫、腹脹、脚氣を消し、心腹、肢体、頭、目、歯、耳の諸痛、癰疽瘡瘍、吐血、下血、尿血、婦人の崩漏帶下、月経不順、産前産後の百病を止める。

     
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V.陳久瘀血の駆瘀血薬

しゃ蟲(しゃちゅう)〔鹹寒〕
「神農本草経」に曰くしゃ蟲味鹹寒、心腹寒熱洗洗血積聚瘕を主どり堅きを破り血閉を下し子を生ず。
「新古方薬嚢」ボク曰くしゃ蟲味鹹寒、血を治す。特に其の結したるものを解く効あるが如し。


蝱蟲(ぼうちゅう)〔苦微寒〕
「神農本草経」に曰く蝱蟲味苦微寒、瘀血を逐い血積堅痞癥瘕寒熱を破下し血脉及び九窮を通利すと。
「新古方薬嚢」ボク曰く蝱蟲は血を逐い滞血を去る事を主る。故によく瘀血を除く。本品と水蛭と効相似て同じからざる所あり、水蛭は血を潤し蝱蟲は血を走らす、此れ水蛭と並び用いらるる所なるべし。


水蛭(すいてつ)〔鹹平〕しまひるを干燥したる物なり。
「神農本草経」に曰く水蛭味鹹平、逐悪血瘀血月閉を主どり血瘕積聚子無きを破り水道を利すと。
「新古方薬嚢」ボク曰く水蛭は血を潤し血を柔らぐ故に蓄血悪血等を除くに用いらる、之れ
生きたる蛭既に嚙傷より出づる血の凝結を妨げ流れしむるを見て知るべし、故に乾物も亦よく血を結せしめざる効あるものならむ。瘀血とは病的に一処に滞りて流行し難きものの事を謂う。又生のひるは吸角の代用として血を吸はしむるに用いらる。


蠐螬(せいそう)〔鹹微温〕昆蟲の蛹蟲にして生のものは其形状蠶に似たり。
「神農本草経」に曰く蠐螬味鹹微温、悪血、血瘀、痺氣、破折して血脇下に在り堅満痛、月閉、目中淫膚青翳白膜を主どると。
「新古方薬嚢」ボク曰く蠐螬味鹹微温、血を治むる効あり、故に大黄しゃ蟲丸中に入る。


病の状態から、温性・寒性・陳久性の駆瘀血薬を組み合わせて処方が構成されています。
其の事を考慮して処方を決定致します。

     
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血の道症でよく使用される処方を体力のある順に並べてみますと




◎要するに瘀血(おけつ)がある体質において、どの程度の体力をもっているのか、熱をもちやすい体質か、冷えやすい体質か、いわゆる熱症か寒症かが問題になります。その体質にあったような瘀血(おけつ)が出来ているようです。しかもその瘀血(おけつ)が充血状態[実]になっている場合の体質か、貧血状態[虚]になっている場合の体質があります。この状態を見極めて、それに見合った処方を服用することになります。
     
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※婦人疾患でのもろもろの不定愁訴の症状は、どの病名であろうともそのよって起こった症状を原因はなにか(温めすぎたか冷やしすぎたか)どの様な精神的な負担をかけたか(何の心配をしたのか)いわゆる物理的な原因と精神的な原因を考え、さらに自分の生まれつきの体質を考慮に判断していくことになります。
     
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妊娠のときの養生薬

「新古方薬嚢」の薬味の分量

一般的には、当帰芍薬散がよく使用されますが、
金匱要略の「婦人妊娠病脈證并治第二十」編に記載されている処方は、
桂枝湯・桂枝茯苓丸・附子湯・芎帰膠艾湯・当帰芍薬散・乾薑半夏人参丸・当帰貝母苦参丸・葵子茯苓散・当帰散・白朮散があります。

この中で「婦人妊娠病脈證并治第二十」編の冒頭に出てきています桂枝湯は、胃腸の弱い、汗が出ていて、皮膚の戸締りが宜しくない妊産婦の方が服用することの出来る風邪薬であります。

「金匱要略」の「婦人妊娠病脈證并治第二十」の第1条に
●「師曰く、婦人平脈を得て陰脈小弱、其の人渇して食する能はず、寒熱無きは妊娠と名づく。桂枝湯之を主どる。方に於いて、六十日にまさにこの證有るべし。もし醫治に逆する者ありて、反って一月に吐下を加えたる者は、則ち之を絶す。」
この処方は、
「傷寒論」の「辨太陽病脈證并治法上第5」第13条に、処方として初めて出てきます。
●「太陽の中風は陽浮にして陰弱、陽浮なる者は熱自から発し、陰弱なる者は汗自から出づ、嗇嗇として悪寒し、淅淅と悪風し翕翕と発熱し、鼻鳴、乾嘔する者は桂枝湯之を主どる。」

桂枝湯は、皮膚の不調和があり、表虚の状態であります。体表の働きが弱り、そこの氣が鬱滞しています。そこの氣が外に出られずに、突き上げてきて、乾嘔という症状が出てまいります。体表の陽氣を与えて、表のもつれを取らなくてはなりません。そこに桂枝が必要になるのであります。

桂枝湯が「傷寒論」の太陽病上編と同じ様に、「金匱要略」の婦人妊娠病編に用いられるというのは、同じ表虚があり病理が同じということになります。妊娠から胎児が段々育っていきますと、体表の陽氣も体の中の方へ入ることにより、表の陽氣が少なくなり表虚の状態となります。このような時の吐き気、いわゆる「つわり」にも桂枝湯が、いく場合があります。妊産婦の風邪薬として使用されます。


婦人が妊娠したら、いつでも服用できる処方があります。それは、当帰散であります。

金匱要略「婦人妊娠病脈證并治第二十」の第9条に
●「婦人妊娠、常に服するに宜し、当帰散之れを主どる。」


当帰散の黄芩は、腹中の熱を和すはたらきがあります。子宮内の胎児が大きくなるにつれて、陽氣の固まりであります胎児の熱が、多くなっていくことを和していきます。其の為に黄芩が必要になってくるわけであります。

更に、腹中を温めて流産癖のある体質を改善する処方白朮散があります。

金匱要略「婦人妊娠病脈證并治第二十」の第10条に
●「妊娠、胎を養うは白朮散之れを主どる。」


流産する体質の方、子宮が冷えている方の為にある処方であります。

当帰散・白朮散ともに酒で服用するようになっています。
この理由から体を冷やす事は、厳禁であります。

     
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