【症例】昭和43年1月生まれ 38歳 女性
【主訴】口内炎(舌炎)
【既往症】甲状腺機能低下症
【現症状】平成18年12月23日に口内炎(舌炎)が良くないとのことで来店されました。この冬の時期に口内炎(舌炎)になったことで、漢方薬を扱っておられるお医者さんの所へ行きましたところ、黄連解毒湯が処方されて服用しましたが改善されないとのことで、2〜3の薬局をまわり、処方して頂きましたが、いっこうに良くならないとのことでの相談がありました。
何時からこのような症状になったのかを聞きましたところ、この1ヶ月の間にこのようになったということでありました。口内炎の場所は、舌の先の方が特に酷くて痛いということでした。体力は普通に見えましたので、何からこういう症状になりましたかと聞きましたところ、口内炎になる前に仕事上で、疲れたという事です。他に症状を聞きましても何ら訴える症状は、ありませんでした。性格上、きちんとした考えを持っているように、見うけられました。
お話をしている間も、口内炎といっても、舌炎でありますが、痛みのほうが酷くて、何とかできないかということでありました。

【案】以上の事から、他の薬局で何の処方を頂いたかが判らずヒントがいただけませんでした。まず、舌といえば、五行色体表からいえば、火のところの心に関係いたします。火は血熱で口内炎、舌炎には、苦剤の黄連剤が良く使われますが、黄連解毒湯・半夏瀉心湯・黄連湯などを考えましたが、黄連が作用しないということで他を考えなくてはなりません。荒木朴庵先生の「七合」という本の中で虫歯を八味丸で治したと言うことが書かれていました。薬を用いる際に、時候を考えなくてはならないことが必要であると書かれてありました。
そこで先ず、今の時期はどうかと言いますと「皇帝内経素問」の運気論から、今年(平成18年)は、水運太過の歳で、火気がおかされ心気に負担がかかります。いわゆる水は火を剋するという事であります。
それに平成18年の12月の時期は腎の王するときであります。1年の中で冬の時期は水が火を剋する時期でもあります。この事から水の、つまり腎の王するときは、火に負担がかかっている事になります。
腎の王するときは、11月23日より翌年の1月16日迄であります。そうするとこの腎の働きを抑えなければ、火の剋の為の心気の負担が軽減されません。その為には、腎の働きである水を剋する土の脾胃を補えばよい事になります。要するに、土が水を抑えればよいという事であります。
脾胃の王する時期、つまり土用は、平成19年の1月17日に入り、立春の2月4日の14時18分にあけます。そこまで待つ事は出来ません。
口内炎になる前に仕事上で疲れたとの事であります。
疲れたことからなった為に「金匱要略」の「血痺虚労病」篇の処方から
黄耆桂枝五物湯・桂枝加龍骨牡蠣湯・天雄散・小建中湯・黄耆建中湯・薯蕷丸・酸棗仁湯・大黄しゃ虫丸・炙甘草湯・獺肝散などを考えて見ました。この中で脾胃を補う処方といいますと小建中湯・黄耆建中湯が良く使われます。黄耆建中湯ほどの疲れとは思えません。
ここで小建中湯を処方して3日分服用して頂くことにしました。この日が12月23日でありました。3日後に来店され、翌日は凄く良くなりましたとのことでしたが、12月24日にクリスマスケーキを食べたところ、また口内炎が出てきましたとの事でした。そこでくれぐれも冷たいもの、冷えた食品類は食べないように注意をしました。そこでまた3日分を差し上げました。年末に来られてすっかり良くなりましたと言って15日分を持っていかれました。

【考察】以上の事から、症状には陰陽があり、熱をもって起こす症状と冷えてから起る症状があることが判ります。直ぐに病名漢方で口内炎となれば、黄連剤と考えがちでありますが、今回は体が冷えて疲れて起きてきた症状でありました。漢方の五行色体表の木・火・土・金・水から症状の時候を考えなければならないことを改めて考えさせられました。

このことから漢方理論の素晴らしさを改めて実感させて頂きました。