肝臓病の漢方的病理

現代医学において、肝臓病には急性肝炎と慢性肝炎があります。B型、C型ウイルスの肝炎にかかわらず、肝臓病の症状には、食欲不振。口が苦い。咽が渇く。めまいがする。舌の色が白い。食物の油物を見るとむかつく。歯を磨く時も吐き気がする。肝臓の解毒がよくないために、顔色がどす黒い。或いは痒みが出てくる。小便に勢いが無い。夜は寝つきが悪い。寝ても目が覚めやすい。寝汗もかきやすい。手の平には紅斑が出てくる。胸のあたりは、わずらわしさがある。ひどくなりますと黄疸が出てきたり、小便の色が赤みを帯びてきたりします。要するに体力があって、熱をもちやすい症状と体力を使い疲労して体力を消耗した症状の肝臓病があります。
熱がこもりますと黄疸となります。体力の如何にかかわらず、血液検査のビリルビン値が高くなってきます。その時に使用する処方の一部を記しますと

一.茵蔯蒿湯―――便秘・尿量減少・頭がくらくらする・胸のあたりに不安の症状
二.茵蔯五苓散―――尿量が少なく便秘がない症状のとき
三.小柴胡湯―――上腹部が張って苦しく口が苦く、食欲不振、腹痛、微熱の症状
四.小建中湯―――虚弱体質で疲れやすく、手足のほてり、頻尿、腹痛の症状
五.桂枝加黄耆湯―体力の衰えた黄疸の初期で汗をかきやすい症状のとき

肝炎が慢性化してきますと、小柴胡湯を一律に使用することは適切ではありません。何故なら肝臓の炎症が進んで繊維化してきますと、肝臓の部分の炎症の熱量が段々少なくなってきます。ここで柴胡剤でその部分を冷やしてしまうと急速に悪化してしまいます。こういう時の処方は慎重にならなければなりません。慢性化してくるとGOT,GPTの値もあまり上昇しなくなります。このような時には、柴胡の比較的少ない量の補中益気湯・加味逍遥散などや駆瘀血剤などを使用します。他には、柴胡桂枝湯、六君子湯、桂枝茯苓丸などを使用いたします。

更に肝炎が進みますと肝硬変になります。こうなってきますと血液検査のアルブミン値、コリンエステラーゼ値、ALP値、ビリルビン値、LDH値、CRP値などのデータにより判断しなければなりません。ここまできますと補剤の人参養栄湯、清暑益気湯、などの五味子の入った処方を使用していきます。段々肝細胞が壊れてきますと、アルブミン値が下がり腹水がたまりやすくなります。人によりアンモニア値が上がってきて肝性脳症になったりします。それと共に黄疸が現れて体が黄ばんできます。肝硬変から肝臓がんになっていった場合でも同じような症状が出てまいります。B型・C型肝炎ウィルスからの肝臓がんも同じような症状を現してきます。肝臓がんはAFPの値も参考になります。

このような症状を呈してくると、一方では腹水がたまり、片一方では炎症があるといったように、腹水そのものは、利水剤で取り除こうとしますと、片一方側の炎症は逆にひどくなることになります。この炎症は冷やさなければなりません。つまり、水を抜こうとすると熱がこもり、熱(炎症)を収めようとすると冷えて腹水がたまるというような状態になります。要するに、二律背反することになります。
現代医学的に言いますと、一方では免疫を賦活させなければならないし、片一方では炎症を抑えなければなりません。どちらに重点をおくかであります。非常に難しい状態であります。
何に於いてもそうでありますが、火事になってぼやのうちに消化しなければ、火が燃えさかってからは大変です。病も同じで、早めに処置して頂きたいと思います。